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札幌地方裁判所滝川支部 昭和56年(ワ)97号 判決 1983年3月22日

主文

一  被告らは原告に対し、各自金七六八、六〇七円及びこれに対する被告阿寒バス株式会社は昭和五六年一〇月二三日から、被告杉崎厚太郎は同年同月二四日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、そのうち三分を原告の負担としその余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自原告に対し、金一〇九万八、〇一〇円およびこれに対する被告阿寒バス株式会社につき昭和五六年一〇月二三日から、被告杉崎厚太郎につき同年同月二四日から、いずれも支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下、本件事故という。)によつて、後記の物的損害を受けた。

(一) 発生日時 昭和五六年七月三〇日午前一〇時一五分頃

(二) 発生場所 野付郡別海町尾岱沼先路上(以下、本件道路という。なお、本件道路は、アスフアルト道路、幅員八・二メートル、直線で、速度制限がなく、追越禁止もなく、かつ交通量も少ない。)

(三) 加害車両 大型乗用自動車(登録番号北二二あ三五一号)(以下、本件加害車両という。)

(四) 右運転者 被告杉崎厚太郎(以下、被告杉崎という。)

(五) 被害者 原告(被害車両の所有者)

(六) 本件事故の態様

原告は、被害車両を運転して本件道路上を根室方面から知床方面に向かつて走行していたが、被告杉崎も本件加害車両を運転して、原告の前方を同一方向に向かつて走行していた。そして、原告が右側に出て加害車両を追越そうといた際、被告杉崎の後記過失により原告は衝突を避けるため、右にハンドルを切つたところ、右斜め前方にある境界石に衝突したものである。

2  責任原因

被告阿寒バス株式会社(以下、被告バス会社という。)は、被告杉崎を雇用するものであり、右杉崎は、被告バス会社の業務のために本件加害車両を運転中、後方確認を怠つて、方向指示器も出さないで急に原告車両の直前に方向を変えた過失により、本件事故を惹起させた。

3  損害

原告は、本件事故により、次の損害を受けた。

(一) 修理費 金九五万八、〇一〇円

(二) 減価による損害 金一四万円

よつて、原告は、被告バス会社に対し、民法七一五条に基づき、被告杉崎に対し、民法七〇九条に基づき、本件事故による損害賠償請求として、各自金一〇九万八、〇一〇円及びこれに対する被告阿寒バス株式会社につき本訴状送達の翌日である昭和五六年一〇月二三日から、被告杉崎厚太郎につき本訴状送達の翌日である同年同月二四日からいずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、(一)ないし(五)の事実は認める(但し、原告が加害者、被告車両が加害車であることは争う。)。同(六)の事実については前段は認め、後段のうち被告杉崎の過失は否認し、その余は不知。

2  同2の事実は争う。

3  同3の事実は不知。

第三証拠

書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれらを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)のうち、(一)ないし(五)(但し、争いのある部分は除く。)及び(六)の前段の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、右の争いのある部分、同2(責任原因)及び同3(損害)について判断する。

成立に争いのない乙第一号証、証人太刀川令子及び同渡辺シズ江の各証言、原告本人及び被告本人の各供述、原告本人の供述により成立の認められる甲第一号証、第二号証を総合すれば、「原告は、普通乗用自動車(以下、原告車両という)を運転し、本件道路の乙一号証の図面上の「IPNO7」付近で道路が直線になる一、二キロメートル手前から、被告杉崎の運転するバス(以下、本件バスという。)に後続して走行していたこと、その間、原告車両と本件バスは、各々、その速度を六〇キロメートル毎時前後、その間の距離を二〇メートル前後に保つていたこと、原告は、当日、友人の車とドライブしていたものであるが、先行する友人の車が、対向車線に走行する車がないので、先行する本件バスを追い越してくるように無線で指示されたので、本件道路が直線になつて間もなく、先行する本件バスを追い越そうとし、右バスの動向を注意するとともに原告車両の方向指示器を点滅させながら速度を六〇キロメートル毎時で対向車線に入り、約一五〇メートル進んだところで本件バスの後部に追いつき、さらに約五〇メートル進んだ地点で右バスの中央部分に並行して走行する状況になつたこと、すると間もなく原告は、本件バスが右に寄つてくることに気づいたこと、被告杉崎は被告バス会社の従業員で、バスの運転業務に従事している者であること、本件バスは、被告バス会社社のいわゆる観光バスで、本件事故当日、三五名定員のところ五名の乗客を乗せ、根室、トド原経由で標津、阿寒へ向かつていたこと、本件事故現場付近の白鳥台の展望台は観光コースの一部になつていたが、そこに止まるか否かは運転手の判断に委ねられていて、事前にバスガイドと相談はしていなかつたこと、被告杉崎は、本件事故当日、右の展望台に入るべく、その駐車場入口の手前約三〇メートルのところで本件バスの方向指示器を点滅させながら約五五キロメートル毎時の速度のまま進行方向に向つて右側に本件バスを寄せていき、それから約二〇メートル進行した地点で右駐車場に入ろうとしてハンドルを右に切ると同時にバツク・ミラーで後方を確認したところ原告車両が本件バスと平行に走つているのに気づいたのでブレーキを踏むとともに左にハンドルを切つてそのまま直進して止つたこと、止つた時の本件バスの位置は本件道路の中央線に沿つた状態であつたこと、ところで、原告は、前記のように本件バスが原告車両に接近してくるのを感じて衝突を避けようとし、ハンドルを右に切つたところ、原告車両を右駐車場の縁石に乗り上げ、右車両のフロントバンパー、フロントサスペシヨン等を損傷し、その修理のために金九五万八、〇一〇円の費用を要したこと、また本件事故により原告車両の価格が金一四万円減価したことが認められ、右認定に反する証人太刀川令子、同渡辺シズ江の各証言及び原告本人、被告杉崎の各供述は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  右の認定事実によれば、原告車両は、本件バスが、未だ右折のための方向指示を出す以前に本件バスを追い越そうとして対向車線に出たが、その時点での本件バスの速度が約五五キロメートル毎時(約一五・三メートル・毎秒)で、原告車両の追い越し速度が約六〇キロメートル毎時(約一六・七メートル・毎秒)だつたのであるから、原告車両が前記認定のように約二〇〇メートル進行するには、約一二秒の時間を要し、この間本件バスは約一八四メートル進行することができ、追い越しをかける前の車間距離は前記認定のとおり約二〇メートルであることを考えると、原告車両は追い越しを開始してから約二〇〇メートルぐらい進んだところで本件バスに横に並んだ状態になつたと考えられ(原告車両が、追い越ししようとして、そのまま約二〇〇メートル進んだ地点で急に対向車線に出てくることは、前記認定の事実関係のもとでは不可能である。)、そうだとすると約二〇〇メートルにわたつて対向車線に出ていた原告車両を被告杉崎が見ていなかつたとは考えられず、かりに見ていないとしたら、それこそまさに被告杉崎の過失というべきである。ところで、車両等の運転者は、当該車両等のハンドル、ブレーキその他の装置を確実に操作し、かつ、道路、交通及び当該車両等の状況に応じ、他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならないことろ、被告杉崎は、かくして、原告車両は、すでに本件バスの横に並んで走行しているにもかかわらず安全を確認しないまま、右折のために方向指示器を点滅させて、原告車両の方に接近し、駐車場入口手前二〇メートルのところで右折を開始してハンドルを切つた際、はじめて、自己の右横に原告車両を認めて急拠ハンドルを元に戻して衝突は回避したものであるが、右の行為は被告杉崎の過失であり原告に急迫の危険を感じせしめ、その結果、前記認定のとおり原告はハンドルを右に切つて衝突を回避したものであり、その際駐車場入口の縁石に右車両を衝突せしめてバンパー等に損害を生ぜしめたものである。したがつて、被告杉崎の右過失により本件事故が発生し、その結果、前記損害が発生したものであるということができる。そして、被告バス会社と被告杉崎との関係が、前記認定のとおりであるから、被告バス会社も被告杉崎の原告に与えた損害について賠償する責任がある。いわゆる不真正連帯責任を負う関係に立つ。

ところで、本件道路は、当事者間に争いのない事実によれば、アスフアルト舗装で、追い越し禁止でもなく、幅員も片側四・一メートルであつたのであり、また、前記認定のとおり、原告は対向車線上を対向車のないことを確認したうえで走行していたのであるから、本件バスが原告車両に接近してきたとしても、接触ないし衝突の危険を防止するためやむをえない措置として、あるいは、警音器を鳴らしたり、あるいは制動の措置をとり、かつ、ハンドル操作を適確に行えば、原告車両自身も縁石に衝突しないで済んだ可能性もあり、以上の諸点を総合判断すれば、原告にも過失があつたということができ、その割合は三〇パーセントと考えるのが相当であるから、右の限度でいわゆる過失相殺することとする。

四  よつて、原告の請求は、被告らは、原告に対し、各自金七六万八、六〇七円及びこれに対する被告バス会社につき訴状送達の翌日である昭和五六年一〇月二三日から、被告杉崎につき訴状送達の翌日である同年同月二四日から、いずれも支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを命じる限度で理由があるから認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担については、民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおりに判決する。

(裁判官 前田達郎)

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